- 食品ロスの問題に関心をお持ちになったきっかけは何ですか?本格的に取り組まれるようになった経緯を教えてください。
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過剰漁獲を主要因に、日本の海からどんどん魚が少なくなっていることに驚き、その危機感を多くの人と共有し解決策を探りたいという思いでシェフたちと一緒に始めたChefs for the Blueの活動ですが、そのなかで、生産から流通、生産というバリューチェーンそれぞれのポイントで、魚が非常にもったいない使われ方をしていたり、使われきれずに捨てられたりしてしまうことが多い現状を目の当たりにしました。
また、魚に限らず食品全体で考えても、食料自給率が著しく低い日本では本来、食料はできるだけ無駄にすべきでないはずです。それにも関わらず、食べ物が軽視されリスペクトがなくなっている状況を変えていかなければいけないと思いました。
- 食品ロス削減に対するご自身の活動の中で、最も印象的なエピソードを教えてください。
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生産と消費をうまくマッチングさせることの難しさは日々感じています。原因は、漁業特有の、生産量や内容の変数の大きさにあります。
天候の影響はあるにせよ、ある程度計画的に生産できる農業とは異なり、天然魚の漁獲は正確に予測・計画することができません。その日の漁獲量やその内容は、当日の朝にならないとわからないのです。さらに、水産物流通においては環境と鮮度の重要性が極めて高いことも、問題をさらに複雑化させています。
- 食品ロス削減に関して、ご自身が感じている今の課題についてお話しください。
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天然資源である魚をどのようにロスなく消費の末端にまで行き届かせるか、という課題には、今までも多くの方々が取り組んでこられましたが、なかなかよい解決策が見つかっていません。
日本の水産物の流通構造は複雑なので、その既存の仕組みを活かしつつ時勢に合わせたかたちにしていくために、課題に取り組むいろんな方々とも今後力をあわせていきたいと考えています。
- 今後、ご自身がより力を入れて取り組んでいきたいと考えていることは何ですか?
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Chefs for the Blueのミッションは、日本の海をサステナブルにし、食文化を未来につなぐことです。ここ数年で動き始めた水産改革が今後うまく進み、科学的な根拠に基づく水産資源管理が広く行われることになれば、生産現場での食品ロスは一定程度なくなるはずですが、それでも生まれるロスに対しては何らかの方策が必要です。海のサステナビリティ向上に向けた意識変容につなげることを主目的に、料理人ネットワークと産地とを結ぶ活動が多いのですが、これをロス削減の動きにもつなげられたらいいなと考えています。直販だけでなく、今はどういった形で流通の方々と一緒に動けるか、考えていきたいです。
- 食品ロス削減への取り組みの中で、つながれるといいな、またはつながってよかったと思われる方
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漁業者さん、流通関係の企業さんはもちろん、地方行政の方々ともつながっていきたいと考えています。というのも、日本は海に囲まれていて、港のある県・地方都市が多いにも関わらず、その足元の宝物に気付いていない行政さんがすごく多いんです。
皆ができるだけたくさん獲ってたくさん流通させようとするあまり、時に浜で魚に値がつかなかったり余らせたりするのではなく、少なく獲って魚一つひとつをていねいに扱い、手当てし付加価値をつけて商品化する、という生産現場での仕組みができていないことが、特に沿岸漁業の水産物のロス(ただ同然で引き取られていくケースを含む)につながっている側面があります。
そのような海の在り方と水産物の処理の仕方を考え直す余地がある地域はたくさんあると思いますので、今後はそういった課題を抱えている地域ともつながっていきたいです。
- 食品ロス削減プロジェクトに対して期待されることについて、メッセージをお願いいたします。
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食を大切にすることは、地球環境を大切にすることにつながります。
逆に言えば、自然から生み出された食を有効活用していかなければ、地球環境に負荷をかけることにつながります。つまり地球環境がヘルシーでなければ、食は生み出せないのです。
SDGsに関する取り組みはすべて密接につながっていますので、食ロス問題だけに特化して取り組むというより、食に対するリスペクトはもちろん「地球に対する共存・共栄の意識」をもつことが、ひいては食品ロス削減につながるのではないかと思っています。
食を大切にすることは、地球環境を大切にすることにつながる